日米の人材紹介ビジネスの違い

グローバル人材獲得を目指す超大手企業は、自社のグローバルサイトを通じて応募者を募り、自社のCandidateデータとして活用していますが、在米日系企業のその多くは、現地従業員の採用に人材紹介会社を活用しています。特に、ここ数年は、コスト削減を理由に、それまで駐在員が担ってきたポジションを日本語バイリンガルの現地ローカルにあてがうケースが増えてきています。

自社内にアメリカ人の人事担当者が存在する、しないにかかわらず、日本本社とのリアゾン役を担うポジションの採用プロセスにおいては、多くの場合、日本からの駐在員がリーダーシップを発揮することになるのですが、ここで認識しておきたいことは、日米の人材紹介ビジネスの違いです。


ここからは、アメリカでの就職を希望する応募者という視点で話を進めたいと思います。

日本で財務系のキャリアを積み、MBA取得のために渡米したK氏は、無事ビジネススクールを卒業し、アメリカでの就職活動を開始。複数の日系の人材紹介会社にレジュメを登録すると、すぐにリクルーターと名乗る若い女性から電話を受けることになります。

リクルーターから、口早に、勤務地、仕事内容が告げられ、「興味があるようであれば、先方企業にすぐにレジュメを送ります。」と。

この時点では、応募企業名は開示されず、書類審査通過後に始めて応募者には伝えられる仕組みになっているのです。そして、大方の場合、書類審査通過の連絡と同時にインタビューのセッティングとなり、急募の場合は、連絡の翌日にインタビューというケースも少なくありません。

応募企業名が初段階で開示されない理由は、応募者から直接、企業に応募することを防ぐため。つまり、「人材紹介会社」のビジネスモデルを守ることが優先されるのです。

日本では、人材紹介会社が仲介するケースでも、最初に企業名が開示され、応募者の関心度を確認してからのレジュメ提出となります。この場合でも、応募者からの直接応募というリスクは考えられますが、暗黙の紳士協定が存在すると言えます。

確かに、アメリカの場合は、「就職であって、就社ではない」というステレオタイプ的な考え方がありますが、Best Companies to Work for といったランキングがあり、企業文化や就業環境も、「Job」を選ぶ重要な項目です。応募意思を確認する段階で、企業名が開示されない採用プロセスを企業側が認識することで、インタビュー時の応募者に対する質問の内容も、日本で当然と考えられてきたものに対して、多少の工夫が必要だということが理解いただけると思います。

冒頭のK氏は、アメリカの採用プロセスに当惑しながらも、書類審査通過の連絡から3日後にセッティングされたインタビューに向け、慌てて、企業研究をすることになるのです。

そして、インタビュー当日、日本人の面接官から

「どうして、当社を志望されたのですか?」

という質問に、(想定はされていたものの・・・)表面的な回答しかできず、とても後ろめたい気持ちを感じざるを得ませんでした。企業側も「ずいぶんと浅い志望理由だなぁ」と応募者への評価を下げる一因にもなり、結果、相互のコミュニケーションが取れず、最終的に優秀な応募者を誤った判断の元、不合格にしてしまう機会損失にもなりかねません。

もし、この面接官がアメリカにおける人材紹介ビジネスのプロセスを知っていれば、このようなインタビューの失敗にはならなかったかもしれません。

一方、製造業を中心に小・中規模の日系企業の担当者からは、「最初に企業名を開示したら、ウチのような小さい会社は相手にされないよ!」という声を耳きます。

それでは、次回は、日米の人材紹介ビジネスの違いを踏まえた上で、考慮すべき企業側の採用プロセスについて考えてみたいと思います。